夢の機械CAD/CAMセレックが私たちの医院に登場して数か月(詳しくはコラム「あの頃の未来に僕らは立っている」をお読みいただければ)私たちの診療は確実に変化が起こっている。
正直言って万人向きではない。使い手を選ぶ。「習熟曲線があることは覚悟してください」とメーカーに言われていた。つまり、使いこなすまでしばらく(その期間は人によるけれど)はモノにならなくて、フラストレーションがたまる出来事もあり、当然すぐに実戦配備はできない、つまり習熟しないと実際に患者さんの治療に適用できない。
スタッフが偶然見つけたのだが、セレックがヤフーオークションで新品同然の個体が半顎で出品されていたらしい。
扱いきれずにほこりをかぶったまま、邪魔者扱いされていることもよく聞く話。購入をためらう人が多くいる理由もこれ。
邪魔者扱いといっても、定価で約1200万円。これだけの現金がほこりをかぶっていると考えたら、なんとももったいない話。
私のようなスーパーカーブームの洗礼をたっぷり受けた世代だと、この価格ならまずポルシェの新車や、憧れのフェラーリも中古なら買えるとひらめく。小学生の頃からの夢、スーパーカーのステアリングを握っている自分が頭の中でちらつく。
でもスーパーカーを買っても自分ひとりでにこにこするだけで、家族は全く興味がない。それどころか、10数年以上乗り続けている今の車、物心ついた時から乗っている車が一番いいと子供たちは言っているし。セレック買ったら自分だけでなく多くの人が喜んでくれるはず。実際スタッフ一人一人がこのハイテクマシーンで楽しそうに遊んでいる。当然患者さんにも多くの恩恵をお渡しできるはず。
更にこれも大切なことだが、この機会を制作販売している人も喜んでくれる、大金はたいてもこんな選択なら間違いないはず。自分のお金の使い方ひとつで誰を喜ばせるか変わっていく。大人になった気分だ。
導入してトレーニングしてわかったことだが、たとえポルシェを買っても使いこなす腕に覚えがある人でなければただの見栄、あるいは鑑賞用でしかない。このセレックも使い手を選ぶ。今まで持っている知識や経験、技術だけで使い倒せる便利な機械ではない。
             
目の前に挑戦を叩き付けられた気分。気楽な診療を選ぶならこの機械はなくてもよい。この人工知能(AI)搭載のセレックに合わせて自分たちの臨床を作り替えていく思いがスタッフ全員にないと、本当にほこりをかぶってしまう。そして見るのも嫌になってくる。

  
特にスタッフ。優秀なスタッフがトラブル回避に熟練していないと、立ち往生間違いなし。患者さんに迷惑をかけ、面目立たない。だけどそれだけでこの機会を否定してしまうのはもったいない。一度その魅力にはまってしまうともっと使いこなしてしまいたく極める気持ちも強くなろうというもの。
良い物を買った感は濃厚で、この目を斬新な機械を楽しむ気持ちをもてれば、これだけでもう1日があっというまに終わってしまう。
イノベーション 歯科の将来が自分の手の中にある 
あまりに良くできていて中におじさん隠れていてもおかしくない
       
しかし、リモートサービスがすごすぎる。リモートサービスとはトラブル発生時の遠隔操作のことで、遠く離れたオペレーターが当院のセレックを乗っ取って、あっという間にトラブル解決。我々は遠巻きに見ているだけでよい。 ≪小さいおじさんが入っている?≫     
何よりもCAD/CAMを語れないとこれからの歯科の未来は語れない。

私もようやくその入り口に立てた気がし て少し誇らしい。将来の歯科技工士さん不足を見越して、今から手を打っていく。状況が切羽詰まってから動くのは嫌だ。
何と言ってもこんなわずかな時間で白い歯、オールセラミッククラウンが、この精度、デザインで完成してしまう。思う通りにデザインが出来て、パチッときれいに収まった瞬間、そして患者さんが驚く顔。「どんなもんじゃい」とうれしくなる。
セレックの歴史は意外と長く、この分野のエキスパートたちの完成品の写真集を見ると、ため息が出るほど美しい。「これってなんで?どうやっているの?」この作品に比べると、自分の操作はもちろん成功例であってもまだまだ満足してはダメだ、高いレベルに到達できること、色々勉強してみるとまだ全部の機能を使っていない。


≪R2D2 小さなおじさん≫
患者さんの反応も面白い。男性の場合だいたいの反応は一様。「ほう。これは面白いですね。こういうの好きなんだよね。初めて見るけどこれってCAD/CAMで、3Dプリンターと繋がっているんでしょ」という反応に集約される。厳密には3Dプリンターではないのですが、このような声をよくいただきます。私も男だし、おもちゃ好き、新しい物好きだからその気持ちよくわかる。

意外だったのはご婦人方の反応「先生これって・・・。」としばらくモニターを見つめた後、問わず語りのように口を開く方多数「先生、技工士さんはどうなるのですか?」「世の中色々機械に置き換わっていくのですね」「テレビで見ました。この医院も取り入れたのですね」と社会の変化を口にする人が多くてびっくり。

「昔、駅の改札口ではさみカチカチさせながら切符切っている人もういませんよね。高速道路の料金所もほぼ無人だし」
「いや、実は私ももうすぐ機械に置き換えられる立場なんですよ。話聞いてくださる?」以下略

「結論どこかに仕事ないかしら?」といった相談事も何人かいて、いつの間にか人生相談のカウンセリングになっていて、お役に立てれば幸いですが。
お台場の新交通システムゆりかもめも20年以上前から運転手も車掌もいない 
新幹線だって出発と到着のほんのわずか距離だけが運転士の腕の見せ所であとは自動制御されていると聞いたことがある

次々と無人化の波が押し寄せてくる。 コンピューターや機械のオペレーターばかりが増えていくと 職業選択の幅も狭くなっていく 職人のような手技を磨く職業に就きたくてもなれない時代なのかもしれない。
人手不足より無人化のスピードの方が速くなる転換点がどこにあるのだろう。
セレックは技工士さん不足の解決策の一つであったが 逆に技工士さんの仕事内容を奪ってしまっていることもあり ますます技工士さんのなり手がいなくなってしまう事態を招いていることも忘れてはいけない
このセレック、今は最進化版だが、次々にバージョンアップされると、このセレックも旧式扱いになっていく。少し寂しい。
でもそうやって世の中が変わっていく。テレビも4K8Kにスマホも私の想像をはるかに超える進化。それをみんなが当然のように望む。今は誰もポケベルなんか持っていない。
歯科の世界もハイテクが支配する時代がすぐそこにあることを知る人は少ない。でも、歯科の近未来像はすごいことになって、それを競って追いかけている人達もいる。
私たちの医院も古臭い男、老けた女の集まりと言われないように常にアップデートしないと、あっという間に陳腐化してしまう。イノベーションのフロントランナーになることはできなくても 少し遅れながら進化の方向を見極め取り入れていこうと考えている