私たちの医院の歯周病治療の大きな3つの柱は、大学病院にも決して負けない最新の治療機器・治療方法、歯周病学会の各種治療指針やガイドラインに沿った治療方針、そして患者さんの気持ちと理解を大切にした心と意識を中心とした医療です。

でも正直申しますと、開院当時はあまり歯周病にそれほどこだわりはありませんでした。

きっかけは2010年導入したCT専用機ファインキューブです。いまでこそ、さほど歯科用CTは珍しくはないのですが、当時は神奈川県でも相模川から西でこのようなCT専用機を採用している医院はまったくなく目新しかったこともあり、この3次元立体画像は私たちの診療を根底から変えました。

もともとはインプラントの専門医として安全安心のインプラント治療をするために骨の診断をしたくて導入した機械でした。これが思いのほか優れもので今までよくこれ無しでやってきたなというほど精密な骨の形態がわかるようになりました。私たちの仕事のフィールドである口腔の世界の精緻なことにいちいち驚きながら診療をしていたことを覚えています。

その結果「骨がないというのがこれほど悲しいのか」と思い至ることになりました。歯周病の本当の姿を見せつけられたのです。

歯科医師という職業上一番悲しいのは、治療の選択肢が入れ歯でしかないということを患者さんに伝えなければいけないことです。患者さんは「いつまでこの義歯を使うのですか?」と尋ねてきます。「申し訳ありませんが お亡くなりになるまでずっとお使いになっていただくことになります。」この答えを聞かされた患者さんの落胆の表情を目の当たりにする時こそ歯科医師としての無力さを感じることはありません。

インプラントも必要であれば治療しますが、歯科医師の本分は歯を残すことつまり骨を残すことでもある。インプラントをしないで済めば患者さんにとってこんなにいいことはありません。患者さん目線に立てば当たり前のことです。患者さんにすれば 心配だったその歯が生き返り不安や苦痛がなくなれば、その担当歯科医師に絶大な信頼を寄せてくれます。これが楽しい!患者さんを笑顔にして喜ばせられる歯周病治療、これが楽しい!

当然のことであるこの事実をもとにこの医院の診療方針を組み立てなおしてきました。自分教育・スタッフ教育・患者さん教育、教育、教育、教育…、その教育情報伝達手段としてもこのCT専用機は計り知れない恩恵をもたらしてくれました。

実際に患者さん教育の一例です。患者さんによく伝えることです。

「しっかり噛めるということは、二つの大切なものが兼ね備えて初めて可能になります。一つは、これはわかりやすいのですが、健康な歯の形があること、もう一つはその健康な歯の根を支える骨があることです。その骨を失うのが歯周病の本当の姿です

この事実を承知しているあるいは知らされてきた患者さんが少ないことに驚きます。だから治っていないのです。

「健康にとって大切なことは自分のかかっている病気がどんな病気なのか知ることですよね?」と問いかけるとほとんどの患者さんはうなづいて下さいます。いかに患者さんに理解してもらいながら骨を残していく治療をするか、あるいは失った骨を取り戻せるか、これが私たちの医院の歯周病治療の大原則となります。

現在私たちの医院には歯周病インプラントセンターが併設されていますがその設立の趣旨は、適切な歯周病治療ができない医院でのインプラント治療は無駄な治療になることがありますし、歯周病を重症化させてしまった患者さんにはインプラント治療が必要になることが多いからです。

インプラントの治療技術と歯周病の治療技術が集約的に提供できる医療施設が必要な患者さんが山のように存在する、その方たちになんとかお役に立ちたいそういう思いで設立しました。

今後この歯周病のホームページに歯周病をテーマとしたコラムを連載していく予定です。当院に通院されている患者さんだけでなく歯周病の適切な情報を必要としている方に適切な情報をお伝えできるようなそんなきっかけになれば幸いです。

この医院に来院される患者さんの数には限りがあります。一般の方だけでなく、歯科衛生士さんや経験の浅い歯科医師の方たちにもお役に立てるような情報をお伝えするつもりでおりますので、お読みいただければ幸いです。そしてご意見いただければなお幸いです。私たちもまだまだ勉強中の身なのです。