私は小さい時から鉄道になぜか引かれてしまう生活を送っています。
現在の診療室を小田急線秦野駅の目の前に引き寄せられるように開設したのも、駅やそこに行きかう電車が診療しながら見られることが理由の1つだったのです。
平成10年、秦野駅に初めてロマンスカーが停車した記念すべき日に、診療の手を止めて鼓笛隊の奏でるマーチに迎えられ、ロマンスカーNSEが停車する光景を、患者さんと一緒に見つめていたことを覚えています。
そのような私が、小田急の中で一番引き寄せられていたのは、9000形という通勤型の車両です。9000形といっても、鉄チャンでない人には何のことやらさっぱりわからないかもしれません。
この9000形が登場した時は、まだ私は小学生でした。初めて9000形を目にした時の心の高ぶりは相当なもので、小学生のハートをあっという間にワシづかみしてしまいました。
「スゲェカッコイイ」 ボキャブラリーの乏しい小学生には、その程度の表現しかできませんでしたが、今ならば、スマートでクールでアバンギャルドでホットでトラッド、デザインの持つ力をこれ以上に発揮できる鉄道車両は日本にはないか、デザインは心を豊かにする、ぐらいの表現になるでしょうか。
昔は春頃になると、今では考えられないことに“ストライキ”というのがあり、電車の運行を完全に止めてしまい、沿線住民は大混乱という行事がありました。ニュース番組で、国鉄や大手私鉄が全線ストップと報じる中で、小田急だけはどんな時でも全線平常運行を当然のように貫き続けていました。当時小学生だった私は、9000形のスマートなイメージと重なって、いつかは小田急沿線住民にと思っていました。
そんな9000型ですが、登場以来30数年経って実際に乗車すると、さすがに騒音や振動が目立ちはじめ、そろそろかなーと思っていたその矢先でした。ついに先日その引退が発表されたのです。
その最終運転の始発駅が私たちの秦野駅だったので、私もつい診療室から飛び出して、写真を撮りに行ってしまいました。
当日は老若男(女はさすがに少なかったけれど)寒い雨の日にもかかわらず、引退セレモニーに参加する人々が多数ホームに集まって、去り行く9000形を惜しんでいました。
最近の鉄道車両のデザインは、特急を除いて効率化、経済化を優先するためにステンレス一色で、デザインも味気ない単純なスタイルが増えてきたようで残念です。
毎日使用する通勤系の車両にも、今の小学生たちの心をワシづかみする、私にとっての9000形のような車両が出てきてほしいと思います。