毎年2000人もの新しい歯科医が誕生している。
来春も多くの優秀な皆さんが国家試験突破を目指して今頃奮闘しているところでしょう。
歯科医になったら 歯科医としての技術を覚えることも急務の課題です
歯科医として 手先の仕事を覚えて 患者さんに対してしっかり痛みを取ってあげて よく噛めて 見た目の良くしてあげて 快適で豊かな生活を過ごしてもらえるようにすることは何より大切な事
しかし歯科医として身に付けることはそれだけでは足りなくなっています
医学部は空前の人気で、毎年入試出願倍率はとんでもないことになっています。
私が受験生だったころの受験事情は全く様変わりして、地方の国立医学部は東大に合格可能な学力がなければ厳しい関門を突破できないようです。
その一方歯学部は、人気がありません ある雑誌が現在の歯学部の現状を阿鼻叫喚と評していましたが、あながち誤りではないでしょう。なぜ人が来ない?
そもそも歯科医という職業を魅力的に感じる人が少なくなっている。
優秀な高校生がこの世界を目指さなくなっている・。多くの歯学部は受験生集めに困難を極める状況
アメリカでは 歯科医が憧れの職業の上位の常連です 多くの人がなりたくてもなれない職業です
なぜこれほどの格差が生じているのか
アメリカの歯科医が特別優秀という訳でもないはず 一部を除いて平均的な歯科医であれば日本人の方がいい仕事をしているはず こちらは繊細な箸の文化 3度の食事の度に細かい手作業をいとわない日本人は 器用さでは話にならない圧勝であるはず 向うは大雑把に握るナイフとフォークの文化 初めから勝負にならない 手先の仕事だけなら こちらの勝ちなはず それではなぜこの格差? きっと考え方や社会の
仕組みが違うのだと思う 何が違うの?
ここから先は現場で歯科医療をしている私の分析です
医師と歯科医師なぜこれほど差がついてしまっているのか。
収入だけでなく、自分の職業に対しての自己評価、やりがいも含めて、私は決して歯科の仕事は医師の仕事に比べて重要度もやりがいも、そして責任も仕事の面白さも劣っているとは思っていないし、劣っていると思いながら仕事をしてはいけないと考えています。
仕事をしながら常に思うことは、人体の精密さである。
これはきっと全知全能の神がいて、その神がいなければ作りえない完成体なのかと思うこともあります。
もし、人体を創造する神がいたとして、その神は口の中は歯科医の仕事、それ以外は医師の仕事と線引きして創造してないはず。後世になって様々な都合でわかれているだけであって、本来は人体を取り扱うという一点で同じ立場であるはず。
宇宙から見れば地球の表面には国境は存在しないのと同じこと
確かに私たち歯科医は、心臓の血管の流れをよくしたり、脳腫瘍を摘出したり、救急救命を施して命を救ったりはできません。
しかしそのようなエキスパートが救った命も食べることができなければゆっくりと死に近づいていきます。食べられなければ死んでしまうことは小学生でもわかっていることです。歯科医は一人一人の命をつなぐ大切な仕事をしているというこの一点だけでも、他の診療科の医師と対等な関係を考えてもいいはずです。
確かに歯科医が接触を許されるのは狭い口腔の中だけという事実はある しかし働きかける対象は 口の中だけではない 人となり 生活習慣 置かれている環境 人全体を見ていないと治せないことも沢山ある
生活習慣病を扱うとはそのようなこと こんな意識も必要
人間理解 人物評価 人間観察が出来ないと 歯科の仕事も行き詰まりを見せる それなのになぜ正当な評価を受けていないのか?
歯科医師数が多いから?それはもう理由にならないと考えています。
もうだいぶ前から歯科医師は不足しています 今後はそれが分かりやすく表面化するでしょう
だから歯科医が過剰と叫んでも何も解決しないでしょう。実際に統計をとっても、諸外国と比べて対人口比率はそれほど多くありません。
何が歯科医を苦境に立たせているのか それは間違いなく保険診療という仕組みです
もちろん保険診療にもいい点はあります。しかしさすがにもう制度自体が古く、しかも改善の見込みはありません。これに頼っている以上、私たち歯科医師に夢も誇りももてません。
以前は多くの患者さんを喜ばせ私たち歯科医療の世界の生活を守っていた保険制度が 治療の質を上げようとすればする程 困窮に近づく仕組みになってしまっている 私たちを縛ってしまう存在になっている
こんな低い点数に私たちは誇りを、夢をかけることができますか?そもそも自分がしてもらいたい治療がすべて保険の中に収載されていません なんでこんな点数なの? なんで低いまま放置されているの?
自分や家族が歯を失くしたり 口の中が崩壊してしまっている場合 全て保険の中で診療してもらいたいと考える歯科医は少数派だと思います
現在の歯科医療費が適正であるかどうかの検証がなければ歯科の未来は暗いと言わざるを得ません
「保険ですべての歯科医療をすべきである」こんなきれいごとを言っても実現は不可能であることは自明の理。
保険診療は歯科診療の一つの領域でしかない、ましてや予防を重視している歯科医なら全員理解されているはず。保険診療で予防はできない。もちろんメンテナンスも検診も保険診療では対応できません。
そうすると当然自費診療の提案になります。
しかしこのように言われることもあります 「そんな高い治療費は払えません」この言葉を私なりに解釈すると、その治療はそれだけの金銭を払う価値を認めません。ということ。
つまり、患者さんの口腔の健康の価値が高くないため、その提案は却下されてしまうのです。
ここまで来ると歯科医師過剰とは全く無縁の価値観です。
今後は確かに歯科医師数抑制政策が功を奏して 歯科医師過剰の問題は議論されなくなってくるかもしれません
しかしたとえ患者さんの数に困らなくても 低額な医療費を求めて集まる患者さん相手に 消耗を強いられるようであれば 結局患者さんを雑にこなさなければならない問題は 改善されません
つまり目の前の患者さんの口腔の健康の価値を上げられなければ、私たち歯科医は決して報われることがない職業となっているのです。
もちろん、いただいたお金にふさわしい診療の質、ふるまい、あるいはいただいたお金以上の価値をのせて患者さんにお返しをすることができなければ、その自費治療は失敗となります。患者さんが「また同じ治療でお願いします」と言って下さらない自費治療は成功とはいえないでしょう。
長い前置きになってしまいましたが、これから歯科医師になるということ、歯科医として夢と誇りを持つために必要なことは、患者さん一人一人の口腔の健康の価値をあげられること、口腔の健康に手間と時間と必要なお金を出していただける人を一人でも多く増やすことだと考えます。
このことに対して国は何もしてくれないし ましてや歯科医師会だけを頼りにすることも出来ない 人のせいにせず人に頼らず 自分たちで解決策を作り上げる それぞれの歯科医に明るい解決策があるかどうかが問われる局面に入りつつあるかもしれません
一般的な歯科医の成功は、自分の医院を持ち多くの患者さんを広く集め、それに対応できるスタッフを揃えて医院を大きくしていくということかもしれません。それはそれで喜ばしい一つの成功ではあります 誰もが出来ることではないし私もそれを求めていた時がありました
でもそれが健康保険が主体ということであれば、それは長く続かないバブルかもしれません。なぜなら保険の中には予防あるいは再発予防という仕組みはもともと入っていませんし、患者さんの意識を会話によって変容していく取り組みも保険ではかなえることができないからです。
多くの歯科医師会の先生方がこの問題に対してご尽力をされている事には本当に頭が下がりますが 今後保険診療が手厚くなることはまず考えられません むしろ貧弱になる一方 そこに自分たちの命運をかけることがいいことなのか
そしてルールが厳格化されればメンテナンスを保険でできなくなるリスクも抱えています
手技向上一本 数の拡大路線でやってきた歯科医がつまずく理由がここにあるとかんがえています。
どうしても歯科医は手先の技術を早く覚えたい、それができて一人前という思考に落ちてしまいます。
もちろん手が動かなければ話になりませんが、手がうごくだけでは私たちは恵まれません。どんなに高度なインプラント、歯周外科、根管治療ができたとしても、その価値を認めて受け入れてくださる患者さんがいなければ収益は上がりません。高度な治療技術を安価な保険でやることが患者さんを大切にすることと勘違いしてしまえば夢も誇りももてません。我々自身で自分たちの仕事の価値を低く見積もっていないかどうか
やってもいないことをやったように見せかけて患者さんに請求したり、資格がない人に資格外の仕事をさせたりといった事はなしです。それは論外 もしそれが横行しているのであれば それは間違いなくブラック
長期時間外労働もなしです。
もし長期時間外労働がなければ成立しないのであれば保険診療はブラックと言われてしまうかもしれません。
働き方改革に逆行しています
充分な収入が得られないのに誇りを持てと言われても無理な話。奉仕の精神は必要ですが 奉仕を職業にはできません これではやりがい搾取と言われてもおかしくありません
収入があればそれは患者さんに還元すればいいのではないですか?利潤がなければ最新の機器を揃えたりスタッフに最新の勉強をさせることもできません。
優秀な高校生が歯科の世界を目指すこともありません。
優秀な人材がこの世界を目指していなければ、歯科界は明るい未来が描けません。
もしそうなったら誰が悪いのでしょう?自分の医院に患者さんをたくさん集めればそれでいい、それだけが歯科医師としての成功ではないはずです
歯科医としての成功ってなに?どうしたら歯科医になってよかったと実感できるのか?報われていると思えるのか?
この状況でも歯科医の未来は明るくすることができます。ただし条件付きですが、と前置きします。
こんなメッセージを私たちは発信してきたでしょうか
・食べられなければ死んでしまう
・口から食べられる幸せを作る、守る
・歯に自信がなかった人に白くきれいな歯並びを提供する 破顔一笑 ビッグスマイル
・日々の生活をかきみだす、台無しにしてしまう、痛みや不安、不便、心配を取り除き、心を軽く、明るくして家に帰してあげる
・「好きなものが食べられない、こんな悲しいことはない」とうつむいて少しずつやせて元気をなくしてきた人にパワーを与えてあげる
・歌うことが私の生きがい、話をして自分の考えをつたえることが私を支える大切な仕事、歯は私の生命線という人たちに思い通りの仕事や生活を送ってもらう。
・笑うことは人間の最大の快楽、笑っている間は誰もが幸せ、その笑顔をさらに輝かせるのは白い歯です。
私たち歯科医は健康な口腔の価値の伝道師であり宣教師であります。
歯科衛生士、受付、歯科助手、歯科技工士、歯科関連産業に従事されている方、あるいは医師・看護師のみなさんすべてを巻き込んで国民一人一人の口腔の価値観を上げることに全力を注入する必要があります。
このようなメッセージを患者さん一人一人が受け止めて 私たちの仕事を高く評価してこそ 歯科医療と言う仕事が報われます 「そうか そういうことか それだったら 口腔の健康に お金 時間 手間と労力をかけよう」 そのように感じて下さる人が多くなれば 経済的に困窮する歯科医も少なくなります
何より健康の価値を低く見てしまったために辛い思いをしている人も少なくなるでしょう
三方よし こんな仕事ができるのは 保険診療の中では限りがあります
保険診療は 何と言っても薄利多売の中で回転を上げて患者さんを‘こなしていかないと‘ 医院の収益が上がらない仕組みだからです 患者さんをひたすら集めるだけの診療は、歯科の仕事を貶めることになっていないだろうか。当然患者さんと十分に対話する余裕などありません だから伝わっていない 知らされていない そして治っていない
患者さんの口の中は 悪くなるこれをそのままにしていいのだろうか 保険診療に従事しているからこそ この仕組みそのものの作り替えをしないと誰も 喜ばせることは出来ないのではないでしょうか
私の考え方は100% 正しいとは思いません 3年後は考え方が変わっているかもしれません
保険診療に従事している歯科医師の間でこのような「そもそも保険診療とは・・」 をこのような議論する風潮が起こり建設的な議論が出来るようになることを望みます
優秀な中学生高校生に この仕事は 一生をかけるに値する仕事だよ と現役歯科医として 推薦できる為にも 歯科の保険診療をそれを取り巻く人が全員納得できる為にも
「患者争奪 値下げ合戦の激化 歯医者過剰で 荒れる診療現場」
このような雑誌の見出しとは無縁の歯科界を 次の世代に残していくのも 中堅と言われるようになった私たち求められていることかと思い このようにつぶやいてみましたけれど ‘少しは起こせよムーブメント‘となるでしょうか
歯科の仕事って楽しいよ 一生をかけて取り組む価値の職業だよ
社会に認められる やりがいを感じる 経済的に恵まれる その仕事を必要としている人がたくさんいる
それを実践の中で伝えられる歯科医師がここにいる そういう発信も必要かと