せまい飛行機での移動中の楽しみの一つは飛行機背面についているモニターです。

様々なプログラムが楽しめるようになっていますが、たまたま斜め前の人のモニターをのぞきこんでいくようについひきこまれて目が離せなくなってしまいました。そのタイトルは「白い巨塔」

昭和世代の方であれば、主演の田宮二郎さんを思い浮かべるかもしれません。権力・野心・上昇志向。かといって下品な感じでもなく、知的でクール。まさにはまり役で入魂の遺作と言うイメージが強いのですが、ここで上映していたのは2003年のリメーク版でした。
私も毎週のように見ていました。

歯科の仕事内容も、体の健康を害する異物を摘出し、再生させるという意味では、外科処置が多い。外科をすべきか他の方法がないか、その後どのように回復させるか。そして患者さんにどのように説明して同意を得られるのかなど、共通点と共感点が多くて心にずしんと届くセリフの連続で、骨太の医療ドラマだ。心に残る数々のセリフを慌ててメモしてみた。

「医療に絶対はない」「だから悩むのだ」「いくら悩んでも患者の為になるとは限らない」
「そもそも治せないかもしれないといっている医者に自分の健康を預ける患者がいるか?絶対に大丈夫という強い言葉が患者を安心させるのだ」「一つの症例に徹底的に向き合う、これが根本姿勢だ」「医者は神様ではない 一人の人間だ」などなど直球のセリフが並ぶ。

その中でひときわ心に刺さるセリフがこれだ。
「そんなはずはないだろう」

就任直後の新進気鋭の財前教授。若くして自信家で実力も充分。教授就任パーティー、海外での講演、公開オペの準備などで多忙を極める中、手術を担当した患者の容体が急変したときのセリフだ。

「そんなはずはない」経験を重ねると誰もが自信がついて診断精度があがってくる。しかし「医療に100%はない」だからそれでいいということではなく、100%により近づける責務がある。

ほとんどは「やはりそんなはずがなかった、これでよかった」となるのだが、人間の体は予測を超えた反応をすることがある。そのときにどのような振る舞いをするかだ。

「そんなはずはない」を100回唱えても治らない。予測と違っても逃げない、ぶれない、言い訳をしない。人間誰でも弱いところがある。けれどそこを踏みとどまる。そして一つの症例に向き合う。その繰り返しの過程はもちろん教科書に記載されていないが、そこから活路が見えてくる。何よりも患者さんから心が離れないこと「失望させない」あとから見れば未熟かもしれないがその時できることをやり切る。

「そんなはずはないだろう」 このセリフから再び教わることは多い。